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最高裁判所第二小法廷 昭和46年(行ツ)31号 判決 1973年10月05日

大阪府堺市船堂町一八三番地

上告人

北側栄太郎

大阪府堺市南瓦町二丁目二〇番地

被上告人

堺税務署長

中川正一

右当事者間の大阪高等裁判所昭和四五年(行コ)第一号所得税、加算税課税処分取消請求事件について、同裁判所が昭和四六年二月二六日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由第一点について。

本件訴状および上告人提出の昭和四四年一〇月三一日付準備書面の中に、本件異議申立棄却決定の取消しを求める旨の申立てが包含されているとは認められないとした原審の判断は、正当であり、所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でない。原判決に所論の違法はなく、論旨は、採用することができない。

同第二点について。

上告人が原審でした所論主張は、原判示に反する独自の法律上の見解を述べるにすぎないものであるから、原審が右主張につきその排斥理由を示さなかつたからといつて、原判決に所論の違法はない。また、本件異議申立棄却決定の取消しを求める訴えを不適法とした点に関する原審の認定判断は正当で、その過程にも所論の違法はない、論旨は、すべて採用することができない。

同第三点について。

所論の点に関する原審の判断は、いずれも正当である。論旨は、ひつきよう、所論各法条に関する独自の見解を主張するにすぎず、採用するに足りない。

同第四点について。

論旨は、原判決の違法ないし違憲をいうものでないことは明らかであるから、採用のかぎりではない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡原昌男 裁判官 小川信雄 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 吉田豊)

(昭和四六年(行ツ)第三一号 上告人 北側栄太郎)

上告人の上告理由

第一点 原判決には行政裁判所判例に相反する判断をした違法がある。

行政裁判所 大正五年五月五日判決

一定の申立と形式

訴状中一定の申立と題する部分に記載なき申立と雖も、他の部分に、その記載ありと認むべき場合に於ては、申立は其訴状中に包含せるものとす。

すなわち、上告人(第一審・原告、第二審・控訴人以下同じ)は異議申立棄却決定処分の取消の申立は訴状の請求の趣旨欄に記載なきも、請求の原因欄に記載してあるから訴状中に包含されているものと解す。上告人は、訴を提起したのは、被上告人(第一審・被告、第二審・被控訴人、以下同じ)が上告人をして所得税の更正、加算税の賦課決定(甲第一号証)に対する異議申立(甲第二号証)取下の機会を与えず、高血圧的に棄却(甲第三号証)したるによることは、訴状の請求の原因により明らかである。

換言すれば異議申立棄却決定処分の取消の申立は主で、更正および賦課処分の取消の申立は従である。したがつて請求の趣旨欄に異議申立棄却決定処分の取消を記載すべきところ、異議申立の根拠は、更正および賦課処分であるから、その取消のみを記載して、異議申立棄却決定処分取消の記載を遺脱したのである。然るに第一審判決は、異議申立棄却決定処分取消の申立に対して判断しなかつたから、請求の一部について裁判を脱漏したのである。そこで控訴状の控訴の趣旨欄に「被控訴人が昭和四三年二月七日所第三七二号をもつて、控訴人の所得税異議申立に対してなした棄却決定は、これを取消す」と記載して異議申立棄却決定取消の申立を明示したのであつて新訴でない。ところが第二審判決では新訴と判断して、この申立を却下したるは、大正五年五月五日行政裁判所判例に反する判断であつて違法である。

また、かりに異議申立棄却決定処分取消の申立は請求の原因欄に記載あるも、請求の趣旨欄に記載なき場合は、異議申立棄却決定取消の訴を提起されたものとみることはできないとしても、上告人が、昭和四四年一〇月三一日付準備書面(昭和四五年六月三〇日付準備書面で誤字訂正)で請求の趣旨の表示を拡張申立したのであつて、上告人が、訴外大阪国税局長の裁決書の謄本を受領したのは同年八月一日であるから、その翌日から起算して趣旨の表示を拡張の申立した日―昭和四四年一〇月三一日は三ケ月以内であるから適法な請求である。然るに原判決は、被上告人が、昭和四五年九月二九日付第一準備書面において「控訴人は昭和四五年六月三〇日付準備書面において被控訴人が昭和四三年二月七日になした異議申立決定の取消を求めているが、右は出訴期間を徒過した不適法な請求である」と申立てたのを認めたるは、上告人の昭和四五年六月三〇日付準備書面(第二回口頭弁論期日に陳述)および同年八月二四日付準備書面(第三回口頭弁論期日に陳述)を無視(実務上では、請求の趣旨の誤字を訂正したり、請求の趣旨の意味を明白にするため補充又は変更の形式をとることは誤辞の変更、意味の補充に過ぎず、訴の変更とはならないことになつているとの控訴人の主張等)して同年六月三〇日付で前記準備書面とともに提出した予備的請求の訴変更申立書の意味を曲解、引用したるは、本件裁判官の官尊民卑の差別心の発露であつて、国民は法の下に平等であるとの原則に反し判決の判断は独断に過ぎ失当である。

なお、上告人は、予備的請求として訴変更申立書を提出したのは、大五年五月五日の行政裁判所判例により別に訴変更申立書を提出の要ないのであるが、控訴の趣旨は誤解を招きたるため、第一審訴状の請求の趣旨の意味を明白にするがため、予備的に訴変更の形式をとつたのであつて、新たに異議申立棄却決定取消の訴を追加したのではない。

第二点 原審訴訟手続には上告人の新たな主張をしんしやくせず、これを排斥する理由を示さない違背があり、また主要な争点を判断するについて影響を及ぼすべき証拠の取捨判断が理由を欠いた違背があつて、民事訴訟法第三九五条第一項第六号に該当する。

すなわち、土地収用法第九五条第三項の規定は、同条第一項に規定する補償金の一部の払渡しを留保した規定であると解する。換言すれば、右の規定は、収入する権利の確定した金額の一部の払渡しを留保した規定である。そこで上告人は昭和四五年九月二二日付準備書面第二項(昭和四五年九月二九日の口頭弁論期日に陳述)において、「かりに譲渡したりとするも土地収用法第九五条第三項の供託金は、所得税法第三六条第一項に規定する収入すべき金額でないと解する。すなわち控訴人の収受することのできない供託金を譲渡所得の収入金額に算入して総所得金額を算定したるは、国民の納税義務負担の不適正な取扱いであつて、国税通則法第一条の法意に反す。また本件の場合、国税通則法第七〇条第一項および第二項、同法第七一条第二号を適用するは同規定の濫用である。」と主張したるも、原判決は、これを排斥した理由を示さないこと、また原判決は、異議申立棄却決定処分取消の申立は出訴期間経過後であるから不適法として却下する証拠に、控訴状及び予備的請求の訴変更申立書を引用したるは第一点の理由により、証拠の採用判断が、理由を欠いているから、民訴法第三九五条第一項第六号に該当する。

第三点 原判決の判断に、判決に影響をおよぼすことが明らかなる法令違背がある。

一、所得税法第三六条第一項

その年分の各種所得の金額の計算上、収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする。

すなわち、所得税法第三六条第一項の「収入すべき金額」とは「収入する権利の確定した金額」であることは言うまでもないが、本件の場合の大阪府収用委員会の裁決に係る補償金は、収入する権利の確定した金額でないこと次のとおりである。

現在係争中の大阪府収用委員会の裁決取消請求事件は、土地収用法第一三三条第一項の規定による事件ではなく、補償を除く収用裁決処分そのものが訴訟の対象となつているものであるから裁決自体が未確定である。したがつて、その裁決額は収入する権利の確定した金額でない。換言すれば、現在係争中の裁決取消請求事件は、所得税法第三六条第一項の「別段の定めあるもの」に含まれるものと解す。依て被上告人は所得税法第三六条第一項を適用して所得を更正したるは違法である。

二、大阪府収用委員会の裁決に係る補償金を譲渡所得として計算したるは、所得税法第三四条第一項後段の規定に反す。所得税法第三四条第一項後段

一時所得とは、資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。

かりに、大阪府収用委員会の裁決にかかる補償金は、収入すべき金額であるとしても土地収用法による所有権の移転は、売買の如く対価を提供することを条件として権利の移転を承諾せしめるものではなく、一方的に権利を収奪するものである(柳瀬良幹著・公用負担法二七二頁一行・二行)から所有権の譲渡でない。故に被上告人は所得税法第三三条「譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいう」を適用したるは違法である。

第四点 異議申立棄却決定処分は憲法違背である。

憲法第一三条

すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追及に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

憲法第一一条

国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、浸すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。

すなわち、上告人は被上告人が昭和四二年所第三一〇〇号をもつてなした所得税の更正および加算税の賦課決定は、前述各点の理由により、その取扱いは適法であるとは認め難い。そこで上告人は、甲第二号証のとおり異議申立をした。しかし異議申立は行政不服審査法第四八条および同第三九条第一項の規定により取下げることができるのであるから、被上告人は棄却決定前に申告所得額を更正せんとする根拠法律、条項を明示したなれば、上告人は異議申立は取下げする意思であつた。然るに被上告人は、上告人の取下げ意思表示を無視して、棄却決定の根本法条を明示しないで、高圧的に異議申立を棄却した(甲第三号証)るは、憲法第一三条の規定に違背し、同法第一一条に規定する基本的人権を蹂躙した不法行為である。依て、その取消を求める次第である。

立証方法

上告人は甲第三号証(異議申立決定書、)をもつて、既述立証の外被上告人が、上告人の異議申立を取下する意思表示(甲第二号証)を無視して高圧的に異議申立を棄却決定した事実を証するとともに、これが憲法第一三条、同第一一条の規定に反する事実を証する。

以上いずれの論点よりするも原判決は違法であり破棄さるべきものである。

右のとおり、上告理由を提出する。

附属書類

一、甲第一号証 所得税の更正

加算税の賦課決定通知書

二、甲第二号証 異議申立書

三、甲第三号証 所得税の異議申立決定書

四、昭和四四年一〇月三一日付準備書面

五、昭和四五年六月三〇日付準備書面

六、訴変更の申立書

七、昭和四五年九月二二日付準備書面

以上

(附属書類省略)

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